光の階段と波打つ鳥居
海の中に立つ鳥居を見に行く。北海道初山別村にある豊岬金比羅神社。祠は海とは反対の崖側にあって、説明板によると、その由来は次のとおりだ。
【金毘羅岬伝説】
風連別(現豊岬)沿岸は、昔から鯨・鮭・鱒の好漁業で明治二十年代初頭には、鯨の群遊もあったことから「鯨とりの岬」とも呼ばれていました。明治四十年頃のある日、この浜に四国の金比羅様のお札が流れ着いているのを奥瀬酉松という漁夫が発見しました。このままにしておいてはもったいないと思い海に戻したところ、翌朝また同じ場所に流れ着いていました。こんなことを幾度か繰り返したがその都度同じ場所に流れ着いたので、何か不思議な因縁があるに違いないと岩の上に小さな祠を建ててお札を祀りました。
この付近は波浪の高いところで幾度か遭難船もありましたが、お札を祀ってからはほとんどなくなり、いつか誰云うとなくこの岬を「金比羅岬」と呼ぶようになりました。
この日はどんよりと鉛色の曇り空。雲が厚く、風も強い。海は荒れていて、夕日までには時間もある。鳥居の中で夕日が沈んでいく光景が素晴らしいと紹介されている場所なので、さしたる大きな期待もなく現地に到着。駐車場に停めた車の窓ガラスが、潮風でみるみる白くなっていく。
しばらくすると、遠くの空で、雲の切れ間から光が差し始めた。空の彼方へと続く階段のような光の筋が、雲の中から海へと降りている。その光の筋は、刻一刻と姿を変えてゆく。塩まじりの風が強吹く中、カメラを構えシャッターを切る。波が鳥居の台座に激しく打ち付け、砂の海岸を洗っている。やがて、海へと降りていた光の階段が、波打ち際を通って、僕の足元まで伸びてくる。明るく照らされた足元を、打ち寄せた波がさらっていく。
雲が激しく動き、光の階段が消えていく。空はまた鈍い鉛色に覆われていく。一羽のカモメが吹き付ける風に逆らうように、ゆらゆらとよろめきながら風上に向かって飛んでいった。
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