2024-11-12

オーロラと流れ星

 2024年は周期的に活動が活発化する太陽が極大期を迎えているという。5月と8月には太陽の表面で起きる爆発現象「太陽フレア」の影響で、日本各地で低緯度オーロラが観測された。一度の大規模な爆発で全人類が使う電力の数十万年分に相当するエネルギーが放出されるともいわれていて、その大きさがいかに僕たちの想像の域を超えているかがよくわかる。

 オーロラは太陽フレアによる爆風が地球に到達し、運ばれたプラズマ粒子が地球の大気と衝突して発光する現象。プラズマは地球の磁力により南北の極地に集まり、そこから大気圏に侵入し発光するが、大規模な太陽フレアは大磁気嵐を起こし、通常はシベリアやアラスカなど緯度の高い地域でしか見られないオーロラが、その影響により南下することで北海道など緯度の低い地域でも見られるというのが低緯度オーロラなのだそうだ。その際見えるのは、緯度の関係から発生しているオーロラの上部、赤い部分だという。

 頭上をさまざまな色の光をまといながらゆらゆらとゆらめくオーロラ。死ぬまでに一度は見てみたいと願望は持ってはいたものの、極北に行くための先立つものもなく夢のまた夢と思っていた。しかし、住んでいる北海道でオーロラが見られるチャンスだという。SNSにアップされた5月と8月に撮影されたオーロラは、よく目にするカーテンのようにゆらめくというよりは北の空をほんのりと染めているといった表現が適切のような気もるするが、確かに赤く、夕焼けとは違う幻想的な光景で心をそそられていた。

 すると、10月1日(火)と3日(木)に大規模なフレアが発生。地球の方向へコロナガスの放出も観測され、5日(土)の深夜にはオーロラが出そうだというので、午前1時に北海道深川市の小高い丘の中腹にある駐車公園に向かう。到着してみると、なんと駐車場がほぼ満杯。ただ、オーロラは見えていないようで、聞こえてきた「きれいな星空を見に来たと思えば、それはそれで…。はははー」という会話がなんともうすら寂しい。カメラを据えて映してみるが、それらしいものは写り込まない。1時間ほどであえなく退散。

 10月8日(火)、X(旧ツイッター)にオーロラが見えている旨の投稿があるのを知るも、それを知った時点には既に晩酌を開始していたためすぐには出発できず。睡眠をとり、酔いを醒まして9日(水)午前3時に見に行ってはみたものの、星がきれいに見えているほど晴れてはいるけれど、オーロラらしきものは肉眼では見えない。油断の飲酒がうらめしい…。後日、写真を見てみると、右下がうっすらと赤く染まってはいるが、低空の雲に反射した街明かりのせいなのかどうかが判然としない。むむむ…といった感じだ。

 そうこうしているうちに、再び10月9日(水)に大規模な太陽フレアが発生。10日(木)深夜にはオーロラが見られる可能性がかなり高いという。深夜といわれても何時なのかはわからない。待つしかないのだろうが、次の日は平日の金曜日。残念ながら仕事がある。

 オーロラが見えるのは極地の方向、つまり北。北の方角が暗く、低い部分に背の高い遮るものがなく、周囲はなるべく街明かりがない場所が観測ポイントになる。人里離れた小高い山の上などがベストなのだろうが、なにせここは北海道で、しかも季節は秋。ヒグマと出会う危険性が当然高くなる。最近は山の中だけでなく、人里にも出没していて目撃事例も後を絶たないので、ちょっと尻込みしてしまう。なので、とりあえず仕事が終わってから、日本海に面した留萌市の海をめざした。ところが… である。海岸線をしばらく走るが、北側にはぽつらぽつらと街灯やら人家やら集落の明かりがどうしても入ってしまう。明かりのない良さげなところには車で入れないようになっている。日本の海岸は簡単には近づけないところが多いのは、本当に残念なところだ。

 街明かりはある程度諦めて、浜辺に三脚を立てカメラを据える。あいにく北の方角には雲がかかっていて、オーロラどころか星も見えない。天気予報は晴れとはなっているが、星が見える晴れとはほど遠い。雲がなくなるのを待ってみたが、残念ながら22時30分過ぎに断念。家に帰るまでの途中でも撮影を試みてはみるものの、手応えはない。午前1時30分ごろ自宅に戻り、遅い晩酌をしながらYouTubeで名寄市立天文台のオーロラライブカメラを見てみる。すると、なんと午前2時ごろ、徐々に低い空が赤く染まり始めてきた。画面の右端のチャットへ一斉に書き込みが始まり、止まらない。しばらくすると、上の方までかなりの範囲で空が赤く染まってきた。「なんてこった~」と言いながら自宅の玄関を出て夜空を見上げてはみたものの、住宅街のど真ん中では見えるはずもなくあえなく家の中へ。居間に戻って続きを見る。あと1時間くらい粘っていれば見えていたのかもしれないと思うと、「むむむ…」な気分でいっぱいだ。酒を濃いめにしてごくりとやる。30分ほどの短い間だったが、今までに目にしたことのない見事な天体ショーで、同時中継で見ることができたというライブ感も手伝って満足ではあったが、やはり「むむむ…」感はぬぐえない。2時30分くらいに元の暗い空に戻ったのを見届けて眠りについた。

 10月11日(金)、仕事を終えて夕方帰宅。ご飯でも食べてオーロラの撮影に行こうと思っていた矢先、「今、北海道でオーロラ見えてるよー」との連絡。「えー‼ なにー‼」ということで、飯も食わずに車を走らせる。前日も最後に訪れた深川市街を見下ろす小高い丘の中腹にある展望広場に午後7時ごろ到着すると、既に数名の先客がいる。
 「何か見えますか?」
 動画を撮影していた男性に声をかける。
 「ここにほら、柱のような感じで見えてますよ」
 親切にもカメラのモニターで写っている場所を拡大して見せてくれた。
 「うおぉー、すごいですねぇ! 写ってますねぇ‼」
 肉眼ではほとんどわからないが、間違いなくオーロラは目の前に見えている。三脚を急いで取り出し、カメラを据え、レリーズを握る。露光時間を変えながらシャッターを切る。モニターには小さく、ぼんやりではあるけれど、柱のように縦方向に赤っぽいものが写っている。

 しばらくすると、目線の上をビュッと流星が流れた。かなり長い時間のように感じた。シャッターを開けていた時間にドンピシャだったが、画角に収まっていたかどうかはわからない。
 「写り込んだかなぁ…。でも、オーロラは写っているだろうし、流れ星も見れたし、まぁいっか。いい日ではあったぞー」
 ダブルで訪れた幸せなひとときに達成感を感じつつ帰宅の途に就く。
 後日、自宅のパソコンで確認すると、な、な、なんと決定的瞬間がバッチリ!
 まさに、それまでのすったもんだのオーロラ追跡が報われた瞬間。
 オーロラと流れ星。SNSにはもっとすごい写真がアップされているのは見ていた。ほんとうに奇跡の一枚というのがふさわしいものばかりだ。たしかに初めて見たオーロラは夜空を大きく染めるほどではなかったけれど、流れ星と同じフレームに収まるなんて、僕にとってはまさに奇跡の一枚。それだけでもうじゅうぶんだ。
 ままならないことばかりの毎日だけれど、宇宙から思いがけないプレゼントをもらったような、そんな気分。まだまだ人生捨てたもんじゃないぞー、なーんて思わせてくれた一枚となったのでした。でもやっぱりいつかは、空に大きく広がるオーロラを見てみたいなぁ。

(撮影地:北海道留萌市、深川市)

コメント2件

  • 匿名 より:

    奇跡の1枚!ステキですねー!
    ありがとうございます!!

    • scenes note より:

      コメントありがとうございます。
      自分にとっての奇跡というだけで、ほかの方にとってはたいした写真ではないのでしょうが…。
      でも、自分が奇跡と思えるような瞬間に出会えることがうれしいというか、幸せというか。
      そんなことの積み重ねを喜べる自分でありたいなと思っていますし、誰かに楽しんで見ていただければうれしいなと思っています。

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