2023-12-21

はるにれさんと流れ星

はるにれの木に会いに来た。
君はいつも、そのだいすきなはるにれの木を「はるにれさん」と呼ぶ。
ふたご座流星群のピークの日とあって、たくさんのカメラマンが木を囲んでカメラを向けている。
「はるにれさん」と流星の一瞬を君に届ける、僕の目的はたったひとつだ。

午後11時、三脚にカメラを固定する。
カメラ任せではなく、レリーズを握り、自分の露光時間と撮影間隔でレリーズボタンを押し続ける。
流星が長く、明るく流れるたびに、周囲から歓声やため息が聞こえてくる。
ただ、「はるにれさん」をメインにした僕のカメラの構図には、まだ1個も流れてくれはしない。

流星のピークは明け方前の予想にもかかわらず、午前3時を過ぎると流れる数がめっきり減ってきた。
それとともにカメラマンたちもその場を去り始める。
でも、僕のカメラは依然としてその一瞬をとらえた感触もないまま、ただただ時間だけが過ぎていく。
やがて、カメラを構えているのは僕だけとなって、はるにれの木と朝焼け、朝日を狙いにカメラマンたちが数人集まり出した。

東の空が明るさを帯び、地平線が橙色に染まり始める。
見える星の数はもうすっかり少なくなってしまったけれど、それでも一瞬をとシャッターを切り続ける。
あたりが藍と橙に包まれたころ、「はるにれさん」のすぐそばで閃光が走った。

レリーズボタンから指を離し、左隣に「やっと撮れたよ」と話し掛けてみる。
本当はそこにいるはずだった君が「ありがとう」って、とってもうれしそうに、とっても楽しそうに笑ってくれている気がした。

(撮影地:北海道豊頃町)

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