下を向いてばかりでは…
5月21日、旭川市にある嵐山に出かけた。この地名は、京都の嵐山に似ているということから名付けられたそうだが、なんだか晴れないもやもやした気分を、展望台にでも登って高いところから下界を見下ろしながら整理しようと向かったのだった。空模様はそんな僕のもやもやした気分をそのまま表現したようなどんよりとした雨交じりで、展望台からの眺めもちょっと残念な感じだが、晴れた日には北は天塩岳、南は表大雪の山々から十勝岳連峰までが見渡せるらしい。が、まったく見えない。そのうえ寒い。「まぁ、こんなもんでしょ…」と駐車場に帰る途中、遊歩道沿いに見たことのない白い花が咲いているのが目に入った。
展望台に向かう時にはまったく目に入らなかったことに我ながら驚きつつ、カメラバッグから一眼レフを出してマクロレンズをつけてシャッターを切る。ひとしきり撮り終えて車に向かおうとすると、あちらこちらに同じ花が咲いているのが目に入った。さっきまで見えていなかったことが不思議なくらい、広い範囲にたくさん咲いている。
家に帰って調べてみたら、ニリンソウという花らしい。「おお、こっちにも」「ありゃま、あっちにも」と撮っているうちに、太陽が雲の隙間から顔を出したり隠れたりするようになった。そのときの注意力というか、興味の方向性というか、気持ちのありようというか、そんなものによって、自分の視界、見える範囲、見えるものがいかに違ってくるかがよくわかる。展望台に向かう途中は、きっと下を向いて、足元ばかりを見ていたにちがいない。
そうやって写真を撮っているうちに、違う花も目に入ってくるようになった。花たちのおかげで、視界が開けてきたようだ。これはホウチャクソウというらしい。
これはクルマバソウ。どの花もとっても小さくて、派手さはみじんもない。でも、可憐さというか、清らかさというか、はかなさというか、そういったたたずまいに心惹かれる。
帰り道、国見峠という場所にさしかかる。狭いけれど駐車スペースがあるので車を降りて、近文山山頂まで歩いてみた。看板には、このあたりは蛇紋岩地で栄養分が少ないなど、植物の生育には不敵な土壌のため、特異な植生だとの説明書きがあった。
これはエゾカンゾウ。北海道では海岸沿いの草地や湿った平地で見られる花のようだが、海岸沿いでも湿地でもない嵐山に咲いている。蛇紋岩地は植物の生育環境としては厳しいため、生存競争が激しくないこの場所に適応し生き残ってきたらしい。湿原のように群生はしていないが、ぽつんぽつんと咲いている姿は、厳しい環境に順応してきた孤高の花といった雰囲気をまとっている。黄色い花が緑の中でひときわ目立つ。なんともかわいい。
これは樹なのだけれど、マルバシモツケなのか。たぶん、〇〇シモツケというのだろうけど、正確な名前はわからずじまい。いずれにしても高山植物のようだが、嵐山は高山ではないので、蛇紋岩地であることと関係があるようだ。かわいくてきれいな花だった。
ちなみに近文山への道中はこんな感じで、身を隠す場所もいっぱいあって、いかにもヒグマが出そうな雰囲気満載。このときはひとりで、ほかに誰も歩いていなかったので、口笛を吹いたり、咳ばらいをしたり、大声でひとりごとを言ったりと音を出しながら歩いたのだが、先日のブログ「三日月と惑星と流星群 」にも書いたとおり、3日後の5月24日午後4時ごろ、嵐山展望台の園路にヒグマのフンが見つかったということで現在は閉鎖中。どんよりとした気分で下を向いたまま、花たちに視野を広げてもらわなかったら襲われていたかも…、なんて考えた一日でした。
【追記】 嵐山公園の一時閉鎖は、2023年6月3日(土)に解除されました。
コメントを残す